楽譜によく書かれる記号や文字。
音符は音の高さと長さだけしか指示できないので、より細かいニュアンスを演奏者に伝えるために作編曲者が随時楽譜に書き込むものです。
強さを表すためにf、mf、pなどが書かれ、
速さや曲想を表すためにAllegro、Andante cantabile、Maestosoなどが書かれ、
音のニュアンスを表すためにアクセント、スタッカートなどの記号やleggiero、dolceなどの言葉が書かれます。
本日はその中からテヌートとソステヌートの2つにスポットライトを当ててみようと思います。
どちらも比較的よく見かけるものなのできちんと整理しておきましょう。
テヌート(- / tenuto)
音符の上や下に「-」を付けて表現することが一般的ですが、文字でtenutoと書かれていることもあります。
音楽辞典に書かれている説明を見てみましょう。
(音を)保って。
音をじゅうぶん長く持続させる指示
【新編 音楽中辞典(音楽之友社)より】
音を保持して。
音符の表す長さを充分に保って演奏すること。
【新音楽辞典(音楽之友社)より】
「音符の長さを厳格に守って、短くなったり減衰したり膨らんだりしないでね」といったところでしょうか。
ソステヌート(sostenuto)
こちらはテヌートと違って記号はありませんので100%文字で書かれます。
こちらも音楽辞典の説明を見てみましょう。
音の長さをじゅうぶんに保って。
【新編 音楽中辞典(音楽之友社)より】
音を保持して。
各音符を充分に。
【新音楽辞典(音楽之友社)より】
テヌートとソステヌートは同じ意味??
音楽辞典に書かれている意味を比べてみると、書き方は異なりますが同じことを書いているような気が・・・
ということはテヌートとソステヌートは同じ意味なのでしょうか。
テヌートの代わりにソステヌートを書いても、ソステヌートの代わりにテヌートを書いても、作曲者の意図通りになるのでしょうか。
作曲者は「なんとなく適当に」テヌートかソステヌートか決めているのでしょうか。
答えは否。
その違いを解き明かすために、もう少し掘り下げてみましょう。
アーティキュレーションと発想記号
アーティキュレーションとは、音の形を整えたり音と音の繋がりに強弱や表情をつけるための指示です。
「音をどのように演奏するか」ですね。
発想記号は音楽のイメージを伝えるための指示です。
「旋律(や伴奏)をどのように演奏するか」ですね。
テヌートはアーティキュレーション、ソステヌートは発想記号
として書かれます。
例えばAndante sostenutoはありますが、Andante tenutoはありません。
4つの音が並んでいるとして、テヌート・スタッカート・スタッカート・アクセントはありますが、ソステヌート・スタッカート・スタッカート・アクセントはありません。
テヌートとソステヌートは使われる状況が違う
ということです。
語源の違い
用途の違いの他にも、語源の違いからも違いを見ることができます。
tenutoはイタリア語のtenereの過去分詞。
tenereには
動かないように押さえる
握る
という意味があります。
例えば、のこぎりで木を切るとき、動かないように上から力をかけて固定しますよね?
そんなイメージです。
一方、
sostenutoはsostenereの過去分詞。
sostenereには
(下から)支える、
助ける
という意味があります。
sosが加わることで「下から」というニュアンスが備わりましたね。
こんなイメージでしょうか。
このように語源から考えるとニュアンスの違いも見えてきますね。
エネルギーの向きが下向きか上向きか。
それを意識すると多少なりとも演奏した際に違いが出てくると思います。
ただし、
テヌートの際に下向きのエネルギーを、ソステヌートの際に上向きのエネルギーを意識すると、前者は重くなりすぎ、後者は軽くなりすぎてしまい、また違うニュアンスが発生してしまう可能性があります。
これは私の感覚なのですが、私は上記の現象を回避するために
テヌートは軽くならないように保つ、ソステヌートは重くならないように保つ
ということを意識しています。
皆さんも、自分なりの表現・表情を見つけてみて下さい。
もちろん、作曲者の意図を汲み取り、音楽に適した表情を出すことが一番の目的です。
「テヌートはこう演奏する!」と決めつけて音楽と表情の可能性を狭めてしまうことのないように気を付けて下さいね。