皆さん、こんにちは。
本日はソロコンテストやソロコンクールに関するお話を。
吹奏楽コンクール、アンサンブルコンテストと共に重要なイベントとしてソロコンテストに参加している人も多いのではないでしょうか。
個人の腕試しが出来る機会、独奏曲に取り組む貴重な機会として積極的に参加することをお奨めします。

さて、ソロコンテストに限った話ではありませんが、こういったイベントは進行の都合から演奏時間に制限があるのが基本です。
そのため、制限時間内に全てを演奏できる曲を選ぶか、曲の一部をカットする、もしくは曲の一部のみを演奏するという選択が必要となります。
私個人の意見としては曲をカットするという行為はあまり好みではありません。
作曲家が練り上げた完全なるフォルムを崩してしまうことになるからです。
作曲家自らが「ここは無くてもよい」と感じていればその部分はそもそも初めから書かれなかったはずですから...
それを個人的な事情で勝手に排除してしまうのはスマートではありませんよね。
とはいえ、「制限時間内に収まる曲の中にやりたい曲がない」「どうしてもこの曲を演奏したい」そんな想いが曲をカットして演奏するという選択肢を生み出しているということは理解しています。

私はソロコンテストの審査員を長年やっておりますが、不自然なカットによって「!!??」となってしまうことが多いことをずっと気にしていました。
強引なカットによる不自然な旋律は聴き手の集中力の妨げになるので残念な気持ちになります。(基本的に採点には影響しませんが)

そこで、「元の曲を知らない人が聞けばカットしていることに気づかないカット方法」を目指し、なるべく自然に聞こえるカット方法を研究しました。
一応、ひとつの形として仕上げることはできましたので、皆さんがコンテストで演奏する際の参考にしていただければ幸いです。

ソロコンテストについて

まずはこの動画で扱っているソロコンテストについて。

ここで扱うソロコンテストとは、JBA主催のコンテストであり、選曲及び演奏に関する規定は2つ。

1つめは演奏時間について。
これは4分以内と決められています。
舞台袖や審査員席にタイムキーパーが待機しており、演奏の1音目(前奏がある場合は前奏の1音目)と同時に測定を開始します。
4分を超えた際の対応は会場によって異なるようで、ベルが鳴って強制終了のケースと最後まで演奏させてもらえるというケースがあります。
参加人数や、時間が巻いているか押しているかにもよると思います。

もう1つは伴奏について。
ソロコンテスとですので当然独奏
しかし、ここでいう独奏とは、独奏楽器と伴奏という形も含まれます
無伴奏の作品、もしくは独奏とピアノ伴奏で演奏できる作品でエントリーする必要があります。
独奏楽器のオリジナル作品である必要はなく、本来は他の楽器のために書かれた作品を演奏することも可能です。
また、協奏曲など、本来はオーケストラの伴奏の作品をピアノの伴奏で演奏することも当然可能です。

サン=サーンス:クラリネット・ソナタ 第4楽章について

折角の機会ですので作品についてもほんの少しだけ触れておきましょう。

サン=サーンスはフランスの作曲家。
ピアニスト、オルガニストとしても活躍しました。
このクラリネット・ソナタが作曲されたのは1921年。
死の直前の作品です。
サン=サーンス、ブラームス、モーツァルト・・・偉大なる作曲家は晩年にクラリネットのためのそれはそれは素晴らしい曲を作りますね。
今回取り扱うのは第4楽章のみですが、全体で4楽章構成になっております。
第1楽章、第2楽章もソロコンテストで時々耳にしますね。
調性はホ長調。
クラリネットはin B♭なのでクラリネットの楽譜ではヘ長調の記譜となります。

第1・2楽章と比べると要求される技術は非常に高度です。
速く難しい動きの中に音楽的な表現を加えるにはある程度余裕が必要ですので、普段から音階練習をしっかりしていて、難度の高い曲を沢山演奏している人でないと良い演奏までたどり着くのは難しいかもしれませんね。

さて、問題の演奏時間。
私の手元にあるCDでは最短、即ち最もテンポが速い演奏はポール・メイエの演奏で4分42秒。
逆に最も長い、即ちテンポが遅い演奏はロナルド・ファン・スペンドンクの演奏で5分40秒。
他のCDやYou Tubeにアップされている演奏を見た感じでは4分30秒前後の演奏が多いですね。
聴いたことがある人ならわかると思いますが、ポール・メイエの演奏はちょっと速すぎます。
このテンポで演奏しようとすれば恐らくピアニストが対応できずに断念することになるでしょう・・・。
そんなテンポで演奏するポール・メイエの演奏でさえ4分を大きく超えることから、ノーカットで4分以内で演奏することは不可能と考えてよいでしょう。
カットは必須です。

カット案

それでは、実際にどのようなカットで演奏をするのかを紹介していきましょう。

まず最初に、これから紹介するカットで4分以内の演奏するのに不可欠な条件をお伝えします。

テンポは
Molto allegro 四分音符=144以上
Allegretto 付点四分音符=88

今回のカットではテンポ設定よりも遅いと4分を超えてしまいます。
Allegrettoの部分が大分速いテンポになってしまうため、Molto allegroの部分をもっと速く演奏できる人はその分Allegrettoのテンポを落とすことを推奨します。

そして、4分間休みなしで吹き続ける体力が必要となります。
とはいえ、この楽章は元々ほぼ休みがありません。
ほとんど休みが無い曲をカットして短くしているのですから、短くなった分負担が少なくなっているので問題ないでしょう。
通し練習を何度もして、4分間アンブシュアを持続できるように鍛えておく必要があります

また、カットによって譜めくりに不都合が出る場合がありますので、各自工夫して対策をして下さい。
複数の出版社の楽譜で検証しましたが、今回のカット案ではどの出版社の楽譜を使ったとしてもそのままの使用では物理的に譜めくりが不可能でした。
カットバージョン用の楽譜を自分で作成することをおすすめします。

それでは実際にカットする箇所を説明していきます。

《カット①》

2小節目をカット。

つまり、クラリネットは2小節休んで吹き始めることになります。

《カット②》

36小節目~47小節目をカット。

クラリネットは1拍目のみ、ピアノは1拍目オモテのみ、36小節目の音を演奏し、その後48小節目の楽譜に移ります。
35小節目からcresc.をかけると繋がりを自然にすることができます。

《カット③》

118小節目~131小節目をカット。

カットの際、上記の譜例のように一部改変して繋げます。
もし演奏時間に余裕があれば132小節目ではなく126小節目に飛ぶとより自然な繋がりになります。
(134小節目の改変は1秒でも短くするための苦し紛れです・・・)
この部分のカットは正直違和感を隠せませんが、自然さと時間の両立は私には不可能でした・・・。
なので不自然さを最大限小さくする方向で試行錯誤した結果がこれになります。

《カット④》

136小節目をカット。

第1楽章のように4拍目で吹き始める。

《カット⑤》

155小節目をカット。

《カット⑥》

158小節目をカット。

時間が厳しいので最後にもう1つ強引なカットを。
クラリネットは譜面上は四分音符になりますが、本来は長く伸ばして終わる音なので多少長く吹いても問題ありません。

以上が私のカット案です。
テンポによってはそこまでカットしなくても制限時間内に演奏できるという人もいると思います。
その場合はこの中からいくつか選択してなるべく少ないカットで演奏できるように調整してみて下さい。
以下の音源はMIDI作成のためテンポの揺れや間を考慮していない機械的な演奏ですが、前述の条件とカットに基づく演奏です。
ちょうど4分ですね。